2008年11月13日木曜日

実験系はできるだけ単純に

Brown UniversityのProfessor Kenny Breuerのセミナーに行ってきました。この人のグループの論文は、以前何回も読んだことがあります。論文を読んで感じたことは、すごく簡単で、単純な実験系しか組んでいないけど、定量的に、しっかり対象が分析できている印象です。僕はそのときこれを見て、このぐらい簡単にしないと、実験というのはうまくいかないのでは、と感じていました。

さて発表の中で、Picassoを引き合いに出して、実験系をできるだけ単純にすべき、との指摘がありました。単純にする理由は、複雑すぎるままだと、対象をうまく調べることができないからです。そしてPicassoを引用した理由は、Picassoの牛の版画が歳を経るごとに、徐々に牛の単純な本質に迫る作風に変化したことからきています。このとき、もちろん細部は無視され、失われるのですが、その代わり、とにかく本質に深く迫れるようになることが重要のようです。

Carnegie Hall

今までたくさんの人を見てきて、サイエンスの実験では、これは誰でもできるだろう、っていうぐらい単純なレベルに落とし込んだものの方が、成功していました。これはやるのは難しいだろう、っていう方法を繰り返し継続して、成功し続けている人は少ないです。できたとしても一回限りだと、科学的な事実としては報告しにくく、論文にはなりにくいです。サイエンスの論文とするには、少なくとも平均値と標準偏差が必要です。

他の人は難しくてできないけど、自分なら簡単な方法を見つけてできるというときに、価値と新しさがあって、成功確率が高くなります。誰でもできるだろうというレベルに落としたとしても、見えないところに困難さが待ち受けていて、簡単にはこなせません。自分でこれは難しいと思っているレベルで始めると、失敗する確率はかなり高いです。

多くの人が実験系を難しくしたままで、実験を始めてしまうのは、どういった理由からきているのでしょうか。それには、3つ理由を思いつきました。難しい問題の中から探す方が、人がやっていない問題を見つける可能性が高いこと。自分ならできると根拠がない自信をもっていること。学校では、難しいことを解いた方がテストの点が高かったことです。

シンプルにしていくことの重要性に再び気が付かせてくれて、Kenny Breuer教授には感謝したいです。難しいから誰も手を出していなくて、そして自分でも難しい方法しか思いつかないのだったら、うまくいく確率は残念ながら高くなさそうです。

Lincoln Center

Everything should be made as simple as possible, but no simpler.

Albert Einstein

0 コメント: